いまの日本経済は「景気は横ばい、でも物価はじわじわと上昇」というムードです。
派手に儲けるよりも、外さない設計で着実に利益を重ねるほうが安全に伸びます。
以下では、ごく基本の数字だけに絞りつつ、失敗しにくい考え方を物語るようにまとめました。
1. 絶対ブレさせない5原則
いくらアイデアが光っても、この5つが揺らぐと黒字は遠のきます。
- 家賃は月商の1割前後に抑える
- 食材原価は4割以下を守る
- 客単価は3,000円台を核にする
- 運転資金は4か月分を確保する
- 排煙と冷蔵には優先的に投資する
ポイントは「大ヒットよりも事故を防ぐ」発想です。家賃・原価・運転資金の3つをシンプルに管理するだけで、売上が多少揺れても店は持ちこたえます。排煙と冷蔵はトラブルが起きた瞬間に営業停止や食中毒へ直結するので、唯一“ケチらない出費”と割り切りましょう。
2. 立地で変わる運営スタイル
同じ焼肉でも都心駅前と郊外ロードサイドでは勝ち方が真逆です。
・都心駅前は「回転数=命」。席が高回転するようセルフオーダーや注文タブレットを早い段階で導入し、客単価は3,600円前後に設定して短時間で稼ぎます。
・オフィス街は“二毛作”が鉄板。昼は900円前後の定食で固定客を掴み、夜に3,300円セットで利益を取ると家賃を吸収しやすい。
・郊外駅前はファミリー需要が柱。座敷やキッズ皿を用意して3,300円前後の単価でも人数で売上を伸ばします。
・ロードサイドなら駐車場と大きな看板が集客装置。客単価は少し落として3,000円前後。ただし週末限定食べ放題を絡めると遠方客も呼び込めます。
家賃 ÷ 0.11 ≒ 必要な月商。まずこの算式で損益ラインをざっくり把握し、立地に合った客単価と回転率を当てはめると数字が走り始めます。
3. 開業費の骨組み
「厨房に最新設備を全部そろえる」は、多くの場合ただのロマンです。実務は“運転資金厚め”が正攻法。
- 最低 600 万円:物件取得・内装・設備・仕入に加えて運転資金4か月分
- 安心ライン 800〜1,000 万円:予備費を厚めに取り、運転資金を6か月へ延長
居抜き物件と中古ロースターを活用すれば初期費用は大きく下がります。浮いた分をキャッシュクッションに回すと「売上がまだ乗らない月」を悠々と越えられます。
4. メニュー設計の定石
メニューは多すぎても在庫とロスの温床。下の配分でまずはシンプルに走らせ、客層が固まったら追加するとロスが少なく済みます。
- 定番6割:カルビ・ロース・ハラミなど、誰もが安心して頼む部位
- 限定4割:希少部位は時価または数量限定で原価の“暴れ”を受け止める
- タレは甘・辛・塩の3種に絞り、在庫を膨らませない
- ハーフ皿を用意し「あと1枚、もう少し食べたい」を拾って客単価を底支え
写真映えする希少部位はSNSでの拡散エンジンにもなります。
5. 物価と人件費が上がったときの逃げ道
値上がりは避けられません。だから“逃げ道”を先に作っておきます。
- 牛肉が急騰したら仕入先を2社に分散し、希少部位を数量限定へ切り替える
- 電気・ガスが上がったら半年ごとに契約を比較し、ピークタイムの稼働を分散させる
- 最低賃金が上がったら23時閉店+セルフ会計端末で深夜手当と人時数を削る
- 客数が落ち込んだら、平日ランチとテイクアウトを用意して売上の底を支える
想定外を想定内にしておくだけで、実際のコスト高でも焦らず対処できます。
6. オープン後 90 日の簡易チェックリスト
最初の3か月は“数字を読む習慣”を定着させる大切な期間です。
- 口コミ評価が★3.8を切っていないか
- 原価が4割を超え続けていないか
- キャッシュ残が1か月分を割り込んでいないか
- 人件費比率が1割を超えていないか
この4点を毎月1回チェックし、もし該当したらメニュー・仕入れ・シフトを一点だけ変更して様子を見る。小さく直して反応を見れば、大きく損をしません。
7. まとめ
家賃・原価・運転資金を死守し、客単価3,000円台で安定を狙う――これが 2025 年に焼肉店を立ち上げる鉄板ルールです。排煙と冷蔵には迷わず投資し、数字は必ず紙に書き出して見える化する。それだけで景気や立地のブレにも耐えられ、月ベース黒字が現実になります。
さあ、五感をくすぐる火と煙のステージへ。まずは5原則を書き留めるところから、あなたの物語を始めてください。